3 剣もて守るもの

La Dolce Vita

【3 剣もて守るもの】 




…わが声に応えし者よ

永遠の誓いをもって

祖なるマナを守り抜く責務を

背負う覚悟はあるか… 


 







イリスをかばいながら、フェルトは闇の中を走っていた。
どこからともなく現れる魔物は執拗に彼の『妹』を狙ってくる。

「大丈夫か?!イリス」

「…大丈夫」

「あと少しだからな、がんばれ」

「うん!」

もう少しで、3人の住む家が見える。
そこにたどり着けさえすれば、誰にも追われないとフェルトは確信していた。
最後の一匹をアゾット剣でなぎ払い、フェルトは闇の中に浮かんだ扉の取っ手に手をかけ、中に入る。
柔らかな日差しの差し込む、明るい室内の様子が目に飛び込んできた。
息を切らせ、傍らで座り込んだイリスの姿を確認すると、フェルトは安堵の息を吐く。

そして、ふと疑問を感じた。

この家には、彼と、妹のイリスと、そして…『彼女』の3人で住んでいる。
なぜか、その彼女の姿が見えない。

不思議に思ったフェルトが、その名前を呼ぼうとしたとき、彼らに向かって何かが投げつけられた。
反射的にフェルトの剣が動く。
導火線を切り落とされて床に転がったのはテラフラム。

そして床に転がったテラフラムを拾い上げ、呆然と立ちすくむフェルトに、にこっと笑いかけたのは…。

「…そんな…」

ありえない。たとえどんなことがあっても、彼女がこんなことをするはずがなかった。
彼や…ましてやイリスに害を加えようとするなど、絶対に。
しかし、フェルトの意思とは関係なく、彼の手にあるアゾット剣は彼女の頭上に振り上げられる。

「よせっ!…俺はそんなことしたくない!」

悲鳴のようなフェルトの声とともに振り下ろされた剣が、彼女に触れた瞬間、ぐにゃりと変形した。
フェルトが息をつくまもなくそれは黄褐色の液体に変わり、彼の前にいた少女をその中に取り込む。

半ば、体を液体に沈みこませながら、手をフェルトに差し伸べて、不思議そうに彼女は問う。

その目はまるで血に染まったかのように、暗く沈んだ赤色をしていた。




「…約束したでしょう?」





「…ヴィーゼ…っ!」



「なあに?」

掛け布をはね上げ跳び起きたフェルトに向かって、声がかけられた。

「…え?…あ…ヴィーゼ?」

激しく息をつきながら、フェルトは声の方を振り向く。
階段近くにいた少女は振り返り、ベッドに起き上がったフェルトを見つめている。

「おはよう。『ヴィーゼ?』じゃないよ。ねぼすけさん」

「お兄ちゃん、おはよう」

その傍には妹であるイリスもいて、フェルトのベッドに駆け寄ると両手を伸ばして挨拶する。

「……おはよう」

窓から差し込む朝の日差しを浴びながら、呆然と、呟くように返した彼の言葉に、ヴィーゼはくすっと笑う。そしてフェルトのベッドに歩み寄ると、彼の顔を覗き込むようにしてたずねた。

「いきなり大きな声で呼ぶんだもの。どうしたの?」

「なにが?」

その言葉に、フェルトは荒い息を整えながらたずね返す。
ヴィーゼは目を丸くして、首をかしげた。

「なにがって…名前呼んだでしょ?」

「憶えてない…」
「フェルト…寝ぼけてたの」

「悪い」

汗で額に張り付いた前髪を掻きあげながらフェルトが言うと、ヴィーゼは「しょうがないなぁ」とため息まじりに微笑んで、手に持っていたタオルをひとつフェルトの膝に乗せた。

「朝ごはんはもうできてるよ。顔を洗ったら来て」

「待ってるから、急いで来てね」

イリスの言葉にフェルトは小さく笑って、彼女の頭を軽く撫でた。

「ああ。すぐに行くよ」

イリスが満足そうに笑みを浮かべて、一階に降りていくヴィーゼのほうへ身を翻した姿を見送った後、フェルトは膝のタオルを掴んで大きく息を吐いた。







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