0 この地より始まる

La Dolce Vita

【0 この地より始まる】 

 

 ヴィーゼが案内した二階の、通りに面した明るい場所ある1つのベッドに、髪を解いた幼い少女が眠っていた。

「ほんとだ…」

その寝顔を見つめたノインが小さな声で呟く。
助け出した当初は紙のように白かった顔色が、今は健康な明るい肌に戻っている。

「よかったな、ヴィーゼ」
「うん」

フィーの言葉に、そう言われたヴィーゼは強く頷いた。

「それに…」

そんな様子を見ながら、フィーは言葉を続ける。

「?」
「昨日の様子では、ヴィーゼのほうが倒れてしまいそうな顔色だったから心配していたんだ。けれど、今日会ってそれもなくなった」

その言葉に一瞬、驚いたように目を丸くしたヴィーゼだったが、何かを思い出したようにほんの少し目を細めた。

「…やっぱり、そうなんだね。ありがとう、心配してくれて」

「ヴィーゼ?」

きょとんとしたノインにヴィーゼは言葉を続ける。

「夕べ、フェルトに言われたんだ。イリスのことを心配して、ヴィーゼが倒れたら意味ないって。イリスを悲しませるだけじゃない、他の人も心配させてしまうって」

『前は傍にいなかったけど、今は俺がいるんだから!俺が代わりにイリスの看病するから、今日はヴィーゼは休めよ』

イリスの傍にいた自分を抱き上げて半ば無理やりにフェルト自身のベッドに座らせると、何時になく真剣な表情でそう言っていた。

「…確かに、フェルトの言うとおりだね」

「うん。でも、もう大丈夫だから」

「そうだね。ヴィーゼがこんなに頑張ってるんだもん。イリスもきっと、すぐによくなるよ」

明るいノインの言葉に、3人は顔を見合わせて、眠っているイリスを起こさないように笑いあった。






その数時間後、ミッドガルド湖にいたジフトスから船が着いたという知らせを受け、フェルトを含む5人は、ベルクハイデ門にやってきていた。
全ての決着がついた今、その結果を報告するためリーゼヴェルトに戻るという彼らを見送るフェルトは、少し表情を曇らせていた。

「ヴィーゼも、見送りたいって言ってたんだけど…」

具合がよくなっているとはいえまだイリス一人にするのは心配らしく、ヴィーゼは工房から彼らを見送っていた。

「気にするな。イリスの具合が悪いのを放っておける子じゃあないだろ」

「そうそう」

言いながらグレイ、ノイン、フィーが船に乗り込む。

「ポウ、早くしなよ」

一人残ったままのポウに、ノインが声をかけたが、ポウは目を閉じて「チッチッチッ」と人差し指をふって見せた。

「おいらはこっちに残るぜ」

「はあ?何言ってんの。あんたのお嫁さん、ミーツェが待ってるよ」

「そうだぞ、ポウ」

横に立ったフェルトの言葉に、ぴくっとポウは反応する。
目を開けたポウはぎろっとフェルトの顔を見上げた。

「なんだよ」

その眼差しに、フェルトがわずかに身を引く。

「…そうはさせないからね」

「は?」

「…おいらたちがエデンから出たら、ヴィーゼちゃんの傍にいるのはフェルトだけ…そんなの、そんなの…」

「お、おい。ポウ?」

ぶつぶつと独り言のように言い出したポウに、フェルトが恐る恐る顔を近づける。その鼻先に、びしぃっとポウは人差し指を突き出した。

「ヴィーゼちゃんと二人っきりにさせるもんかー!」

「………イリスもいるから3人なんだけど」

「意味は同じだい!」

「フェルト、大丈夫だ。ポウはワシが責任を持ってミーツェのもとまで送り届けるから」

その襟首を掴んで、グレイがポウを船内に引き入れる。そして早々に船を岸から離した。

別れの挨拶を交わす中、フィーがフェルトに向かって叫んだ。

「落ち着いたら、一度リーゼヴェルトに3人で来てくれ。歓迎する!」

「ありがとう!」

「それでな!その時にでもいいから、改めてフェルトの『妹』を、私たちに紹介してほしいんだ!」

それは当然、イリスに自分たちのことを紹介してほしいと頼むことでもある。
思いがけない言葉にびっくりした表情を浮かべたフェルトが、意味を理解したあと顔をほころばせて満面の笑顔を見せる。

「わかった!」

「できればなるべく早くねー!」

大きく手を振るノインに、フェルトも同様に手を振り返した。



「ああ。約束するよ!」






 


―――そうして…エデンを旅立った少年は、再びエデンに戻り
それぞれの日常がまた、戻り始めた。

 

 
 


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