カレカノ 彼と彼女とその後の行方

 

 

カレカノ ANOTHER VERSION 4

 





卒業してから何年もたっているとはいえ、今でもアルレビス学園と目の前のマナ…正確にはヴェインと言うことになるが…の組み合わせについて言及するのは、当時のアルレビス学園関係者にとってある種の禁句に近いものがある。
かつて、あの出来事について教師から質問されても、ヴェインも他の仲間も迷宮の最奥で出会ったマナについて一言も話していなかった。
また、騒動の原因であると目された『人工マナ』の男子生徒…ヴェインが、その後の調査で「常人とまったく変らない」と結論付けられたことで、騒動の根本的な部分は解明されないまま、うやむやになってしまっていた。
つまり…。

「このマナをヴェインと勘違いして、かつてのような事件が起こるのではないかと考えたということですか」

ため息をつきながら言ったのはロクシスだった。

「そんなことで、マナを捕らえられると考えるのも思い上がり甚だしいとおもいますが」

「ふつーは考え付かないけどねぇ…」

「あ、ぼくはひとり知ってるよ。虫取り網で…」

ニケとロクシスの言葉を聞いていたマナが何か言い出しかけたところで、内容に気づいたヴェインとフィロが「わあっ!」と慌てて声を上げた。

「わああ!それ秘密だから言っちゃ駄目だよ!」

「なんであなたが知ってるのよー!ヴェイン君にしか教えてないのに!」

「そりゃあ、あの頃はぼくと彼は一緒だったんだし、当然じゃない?」

「やだー、忘れてよぉ!」

言いながら面白がっているマナと、真剣に怒っているフィロと、フィロを宥めながらマナを止めようとするヴェインと。
本来の話の筋とは別のところで盛り上がっている3人に、アンナがびしりと指をさす。

「フィロ先輩、ヴェイン先輩。論点ズレてますから!あなたも余計なこと言わない!」
「はーい」

神妙にしたフィロとヴェインの横にふわふわと浮かびながら、言葉だけは素直に答えたマナに、ため息をつきながらアンナはグンナルに向き直る。

「…それで、なぜ契約が有効ということになるんです?いっそのことこれが犯人だと突き出したらそれですむんじゃありませんか?」

「うむ。それも考えた」

「…で?」

「簡単すぎてつまらん」

「…さいですか」

だはぁ、と脱力したように椅子に背を預けたニケを横目で見ながら、補足するようにグンナルが続ける。

「それに、ヴェインが同意するとも思えんからな」

その言葉に、ロクシスがヴェインを振り返る。
昔の自分そっくりのマナの横で、申し訳なさそうにヴェインがロクシスを見返す。

「ヴェイン?」
「そりゃあ昔は凄く迷惑かけたけど、すくなくとも今回はそんなにひどいことしてないみたいだし…」

「…相変わらずだな。君は」

「う…うん…ごめん。それにそのあと彼がどうなるのか考えると…ちょっと、ね…」

ロクシスの呆れた声に謝りながら、ヴェインはそれまで気にかかっていたことを口に出す。

「あ…」

過去の、自分たちと同じ錬金術士が行ったという出来事を思い出すと、問題のマナだからと連れて行くには抵抗があるし、それに、万が一ということもある。

「心配してくれるの? 嬉しいな。でも大丈夫だよ、『どんなことをしても』かならず君のところに帰ってくるから」

万が一という、懸念のひとつ。
にっこりとヴェインに笑顔を向けるマナの言葉には、やはり微妙に寒気を感じた。

「…とまあ、こうなるだろうからな。少なくとも契約していれば、一定距離以上離れることは出来なくなる。こいつが妙なことをしようとしてもある程度把握できるだろう」

普通のマナ程度の力になっているのであれば、この場にいるものだけでもマナと契約した錬金術士が5人いるのだ、何らかの方法で抑えることもできるだろう。
グンナルの言葉にむくれていたマナだったが、そういうことならとしぶしぶ周りの仲間がヴェインの契約を了承したことで、とたんに機嫌を直した。

「じゃあ、改めてこれからよろしく」

自分から決別したマナに対してそう言うことに少し戸惑っているヴェインに対して、マナはにこりと微笑んだ。つられてヴェインも笑顔になる。

「よろしく。気分的にはただいまって感じだけどね」




それからしばらくして、工房近くの森の散策から戻ってきたサルファは、出迎えたふたりの飼い主に、目を半眼に細めた。

「「おかえり、サルファ」」

ユニゾンの声に、ぴくりとヒゲを震わせる。
出窓から帰ってきたサルファをむかえたヴェインとマナの二人で、フィロやニケたちからはサルファの様子はあまり見えないのだが、ばしばしと激しく窓の板に叩きつけられ始めた尻尾の音に、黒猫が非常に機嫌を悪くしていることが部屋にいた全員に分かった。

「…なぜお前がいる」

ふたりのヴェイン。そのどちらにもサルファは言いたいことが山ほどあったが、まずはマナのほうを向く。

「ひさしぶりに目が覚めて、彼に会いたくなったから来たんだ」
「わぁ、久し振りのサルファの声だ」

サルファの言葉に答えたマナの横で、ヴェインが歓声を上げる。

「…ヴェイン? これはいったいどういうことだ」

「どういうって…実はね彼と契約して…」

「契約だと!?」と言いかけて、サルファは会話に違和感をもった。
以前と違い、自分の言葉は全て正確には通じていないはずだ。
それなのにまるで今はマナであった頃と同じ、言葉がわかっているように…。
ふと見上げた目が、マナの顔を捉える。
言わなくても通じた言葉に、マナは得意げに答えた。

「あ、ぼくが話せるようにしてあげたんだよ。またサルファと話せるようになりたいって言っていたから」
「ヴェーイーン――?」

ぎろっと睨んだサルファに、何年ぶりかにサルファの声が聞けたとはしゃいでいたヴェインは、彼の怒りを感じて、それを少しだけ抑えた。

「…も、もしかしてサルファ、怒ってる?よ…ね…」

唸り声が聞こえそうなほどしかめられた顔と、ばしーんと叩きつけられた尻尾の音に、答えを聞くまでもなく察する。
そこに、彼ら…二人と一匹の動きを後ろから眺めていたロクシスが、合間を縫うように声をかけてきた。

「サルファ、取り込んでるところすまないが、すこしいいか」
「なんだ?小僧」

ある事情から、ぴくりとロクシスの眉が動いたが、それだけだった。
まるで人のように、サルファにむかってロクシスは話しかける。

「…。君ではなくそこのマナになんだが…なぜ私たちにもサルファの言葉が分かるようになっているんだ?」

ロクシスの背後では、ニケやアンナが、「サルファ渋ッ!」「わーーーなんだか顔が!」「サルファ君おじいちゃんじゃなかったんだーー」と騒いでいる。

「え?サービス」
大丈夫だよ。ちゃんとほかのひとには猫の声に聞こえてるから。
ジト目で睨んだサルファに答えながらマナが告げる。

「余計なことを…。まあこの際、通じるのならむしろ都合がいい」
「あ、サルファ」

ため息をついたサルファは出窓から下りると、ぴんっと背筋を伸ばし、テーブルのほうへ歩いていく。
椅子の並んだカウンターに飛び乗ると、まだ窓の近くにいるふたりのヴェインを睨んだ。

「二人ともそこに座れ」

「はい」
「うん、まあいいけど?」

まだ怒気をはらんでいる声に、二人は素直に椅子に座る。
昔、遥か昔に見たことがあるような光景だと、二人と一匹を見ていた周りのものは思った。
そう思った数秒後に、予想通りの光景が目の前で始まる。

「いいか、そもそもあの迷宮の中で…」

ロクシスもかくやという、サルファの説教。
昔はヴェインの言葉しか分からなかったから、今日ひとつ理解しがたかったけれど…。

「…ときどきアトリエの中で同じような光景を見たことがありましたが…」

「あれってサルファに説教されてたんだ…」

「というか、二十歳も過ぎて猫に説教されるというのはどうなんだ」

「んーでも、ヴェインくん、いまでもサルファくんに怒られること多いし」

「…なぜ?」

「部屋にミント飾って気に入らなかったーとか。お魚が好みじゃなかったとか」

「…ほんとに、サルファの言葉を分かるようにしてもらわなくても、十分通じてたんじゃない…」


(おわる)


 



 

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