カレカノ 彼と彼女とその後の行方

 

 

カレカノ ANNIVERSARY

 



街の郊外にあるその工房に、二人が訪ねてくるのは久し振りだった。

「やっほーひさしぶりぃ!」

カラランッと軽やかなドアベルの音が響いて、ゆったりとした服装の女性が姿を見せると、その後に2人分の荷物を抱えて多少疲れた様子を見せる長い髪の男性が続いた。

「わぁ!ニケちゃんいらっしゃい!」

棚のそばにいた工房の主であるピンクの髪の女性が振り返り、そこに友人の顔を見つけるとぱたぱたと駆け寄ってくる。

「フィロ、どうしたの…ってニケ?」

その声に工房の奥から、ひょこりともう一人の工房の主である灰色の髪の男性が顔をのぞかせた。
そしてフィロの傍にいる女性の姿に驚くと、久し振りの再会を喜ぶ彼女たちの脇でげんなりとしている、古くからの知り合いである金髪の友人に声をかける。

「久し振り。元気だった?ロクシス」
「久し振り。ヴェインの方こそどうなんだ?…といっても、今は少なくとも君のほうが元気だろうな」

「失礼」と一言断りを入れながら荷物を降ろすロクシスの傍まで出てきたヴェインは、並べたら入り口を塞いでしまいそうなほどの荷物を見下ろして目を丸くした。

「今回は一段と荷物が多いね」
「ああ。少し事情があって…」

ようやく荷物を降ろすことが出来たロクシスが、「ふぅ」とため息混じりに息を吐くと、それを聞きとがめたニケが「じじむさ!」と声を上げる。

「アンタまだわっかいんだからさ。おっさんみたいなため息つかないでよ」
「…これだけの荷物を人に持たせて言う台詞かそれは」
「だってみんなへのお土産だもん。それにアンタが持つって言い張ったんでしょー?うちには持たせてもくれなかったし」
「当たり前だろう。今の君に持たせられるわけ…そもそも、土産なら行きに買わなくても帰りに買えばいいものを…。…? なんだ、ふたりとも」
「どしたの?ヴェイン、フィロ?」

奥の部屋に案内する前に店の中で言い合いを始めたニケとロクシスの間で、ちらちらと二人の様子を伺っていたヴェインは、いきなり声をかけられてしどろもどろになりながら口を開いた。

「あのさ…ロクシスって、あんまりそういうことしない…って思ってたんだよね」

持つといってるものを無理に自分で…である。あるときを除いてヴェインが見たことはない。
口ごもるヴェインの横で、彼とは対照的な表情のフィロはにこにこと友人の顔を見る。

「あとね、なんとなくなんだけど。もしかしてって♪ねぇ、ニケちゃん」

それに対する二人の反応ははっきりしていた。
フィロの言葉を聞いたとたん、ロクシスは赤面して目をそらす。
ニケは満面の笑みを浮かべて、Vサインを作った指を突き出した。

「んふー、3・人・目!」




「最初は上の子のことでちょっと用があって出てきてたんやけど、その途中でコレがわかって。そうするとしばらくは動き回れなくなるし?この際だから身軽なうちにフィロたちに会っておこうと思って遊びに来たんだ」

工房の奥にあるフィロたちの自宅で寛ぎながらニケがけろりと言う向かいで、フィロが熱心に話を聞いている。そのニケの横で、無表情を貫いている…というかそう努力しているロクシスと、話を聞きながらなんとなくいたたまれない気持ちになっているヴェインがいた。

ロクシスとニケがそういう関係だったとヴェインが知ったのは、フィロの薬が完成したあとだったから、それからもう何年もたっていることになる。
そもそも知るきっかけがニケの妊娠…だったため、ある意味ではいまさらなのだが、その後にフィロから聞いた話によると、実は学園にいたときから二人は付き合いがあったとか、卒業後一度別れてそのあとまたくっついたとか…。卒業後しばらく一緒に旅をしていたにも関わらず、人のことをたまに冷やかしたりしながら、一切それを気取らせなかった友人には実は聞いてみたいことがあるのだが、聞いたら最後、ノンストップの説教が待っている気がしてヴェインは言い出せていない。

「あ、そうそう、上の子と言えばー…」

ニケの言葉にフィロがたずねる。

「たしか、男の子だっけ?」
「うん、セスっていうの。この子がマナと契約してね」
「え?!」
「ちょっとまってニケちゃん。セス君っていくつ?」
「3つ」
「…それすごく早いんじゃ…」
「アンナちゃんも物心ついたときにはマナが傍にいたって言ってたから…それと同じくらい?」
「かな?水のマナだって。で、さー。それを知った時にねー」

にやにやと笑いながらニケは視線を横に流す。
「あ」と思ったヴェインの傍で、ニケの目配せに気づいたフィロがぽんっと手を打ち鳴らす。ヴェインの制止は間に合わなかった。

「わかった!ロクシス君が!」
「そう!」
「…そっかー、ショックかもねー」
「いちおー、父親の威厳っていうか面子っていうか、んまあそんなことで、なんともない振りしてたけどー内心じゃあねぇ、ね?」
「…ろ、ロクシス…」

先ほどから黙ったまま不機嫌そうな表情を隠そうともしないロクシスに、ヴェインがどうしよう、といったようにおろおろしていた。

カラララン!
ちょうどそのとき店のドアベルが鳴り、人の呼ぶ声が4人のいる部屋に届く。
ぱっとヴェインは立ち上がると、店に出ようとするフィロの肩に触れて止め、友人たちに声をかけて工房のほうへ部屋を出て行った。
ヴェインを見送った後、ロクシスはおもむろに横に手を伸ばし、軽くニケの頭を小突く。

「からかいすぎだ」
「ごめんって。だって二人とも面白いからさ」
「ヴェイン君のおろおろした顔久し振りに見たー♪」

悪びれず、ぺろりと小さく舌を出しながらニケが言うと、机に頬杖をつきながらフィロが目を細める。
案の定のふたりの言葉に「まったく…」と口の中で呟きながらロクシスは息を吐く。
3人の会話が終ったころに合わせるかのようにヴェインが部屋へと戻ってきた。
「ごめんね」と一言あやまりながらというのがヴェインらしい。

フィロとヴェインは二人で工房を開いている。
フィロの薬を作るために彼女の工房に間借りしたのがきっかけで、ヴェインはこの街で暮らすようになり、彼女の体が治ってからは工房は二人の共同経営となっていた。
風邪薬や栄養剤のようなものから爆弾の類まで。幅広い物品の取り扱いが売りである。
…フィロの体のことを知らない街の人から、爆弾騒ぎを起さないための『お目付け役』として認識されていたこともあるのだが、彼の体についてはあからさまではないにしろ『違う』ということが知られている。
それでも、工房でアイテムを創り、お客である街の人と接するヴェインは楽しそうだった。
ずいぶん前の、彼と共に彼の生まれ故郷を訪れた時のことを思い出すと、今のヴェインの姿はそのときよりも変ったと思える。



しばらくして、ヴェインが用意したお茶とお菓子を食べながら

「そういえば、アンナちゃんどうしてるかニケちゃん知ってる?」
先ほど話題が出た後輩の名を出して、フィロがたずねた。
「んーん。…そいえば、どうしてるんだろうね」

お菓子をくわえたままニケが首を横に振ると、ふぅ、とフィロがため息をついた。

「そっかー。1年位前には手紙が来てたんだけど…」
「…内容はやっぱり、打倒、グンちゃん?」
「うん」

こくりと頷いたフィロに、ニケは「だはぁ〜」とだらけたように椅子にのけぞる。

「アンナも懲りないなー…ってかやっぱりあのお見合いがまずかったのかな」
「私に聞かれても…。それにあれは先輩一人のせいではないだろう」
「お見合いのことをバラしたアンタも含めてみんな共犯だよね」
「…」

名のある家に生まれた者同士、なんとなく共通の認識をもっているとアンナとロクシスはお互い気づいていたので、学園の隠された場所に向かう皆と別れ、フィロの薬の材料のひとつを取りに行くというアンナにロクシスは同行していた。そしてそこで偶然、取引の内容を知ってしまって…フィロの薬が出来て体が治ったとわかったとたん実家に帰ったアンナの姿に、思わずそれを明かしてしまったわけなのだが・・・。

「んー、共犯っていうのはちょっとやだなぁ…犯罪者みたいだし…」
「んじゃ、正義の味方?」
「それもちょっと…」

フィロが不満げに呟くのでニケが言い直すと今度はヴェインが苦しげに胸を押さえた。
ある意味当事者であるヴェインには今の言葉はきつかった。
…だって本当にどうしようかと思ったのだ。
あの時は。
とにかく時間がなくて、お見合いだけでもぶち壊せばOK!というニケの言葉に促されて、先輩と一緒に「アレ」になったわけだが。
一緒に逃げ出すはずのアンナは絶対この場から動かないと言い出すし、先輩は先輩でアンナのお見合い相手と妙に意気投合して、真剣勝負を始めるし、ヴェインはアンナの父から「曲者」呼ばわりされて切りかかられるはめになった。
結局、先輩と意気投合した『お見合い相手』がその場からいなくなってしまったことで、お見合い話は流れたが、…怒りまくったアンナがその場で再び打倒グンナル先輩を叫んだ。
それから数年経っているが、いまだに気になっていることのひとつである。

「すくなくとも、グンちゃんは見つけられたとは思うけどさー」
「アンナちゃんだし」
「…それで説明付けられることも凄いと思うがな」
「そのことに僕たちがあんまり違和感を感じないのも…だよね」

卒業後に最初にグンナルを見つけたときには自分たちも一緒だったが、たぶんたった一人でも、アンナなら可能だと思う。

「捕まえられるかと言われると…まだ…かなぁ」
「「「…」」」

思わず3人がいっせいに頷く。



ところでこの後、錬金術士の協会から、レシピ強奪の容疑である組織の名前が通達され、同じ日の手紙に、懐かしい友人の名を見ることになる。

 



 

                              【終】                   
 

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