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入学して卒業するまで、ほぼ3年間ずっと学園から出ることの無い生徒たちにとって、購買部はとても重要な場所だったりする。
もちろん、普段の調合や勉強に使う材料など扱っているから重要ともいえるだろうが…。
実はそれ以外にも、売っている物はあるのだ。
「はーい、どうぞ」
「ありがとうございますー。えーと、どれにしようかな」
「フィロ、なに、それ?」
「うん?便箋だよー」
「これは?」
「封筒。…あれ?もしかしてヴェイン君見たこと無いの?」
「…見たことはある、かな? ゼップル先生にもらったものと似てるから…」
以前受け取った…学園の紋章の入った、厚い紙の封書。
それは入学を許可するという内容の、味も素っ気も無いものだったが、今フィロが手にしているのは、淡いピンクの花模様が入ったかわいらしいものだ。
「お父さんとお母さんに手紙を書こうと思って」
入学式からしばらく忙しかったが、授業にもなれて落ち着いた頃から、数ヶ月に1度程度、フィロは手紙を書いていたのだ。
「へーぇ、うちも書こうかなー」
ひょこんと顔をのぞかせて、ニケがフィロの手元を覗き込む。
「じゃあ、ニケちゃん。半分こする?そうしたらちょっとだけ安くなるし」
「うん!いいよー」
「なら一緒にえらぼv」
そんな二人の様子を、ヴェインはすこし取り残された気分で見ていた。
「にゃー(ヴェイン)…」
そんなヴェインの足元にサルファが体を擦り付ける。
「うん、平気だよ。サルファは傍にいてくれるんだもの」
にこっと、サルファにヴェインは笑いかける。
フィロやニケの両親のように、大事な人が遠くにいるわけじゃない。
すぐ傍にいてくれるのだから…。
「ずいぶん賑やかだな」
「ロクシス」
「うらやましそうに見ているが、君も買うのか?」
「え?ううん…僕は…」
不意に声をかけられて、ヴェインは隣を仰いだ。
そこにはやはりロクシスがいて、ヴェインはあいまいに返事をした。
「そうか…たしかに君向きのものじゃないな」
だが、すぱっとそう言われて、思わずうつむいてしまった。
「大体、あそこにおいてあるものは、女性が好むようなものばかりで、シンプルなものはほとんど無いからな…私も買うのは気が引ける」
…そう独り言のように呟いたロクシスの言葉を聞き、ヴェインは顔を上げた。
なんだか、自分が考えていた意味とは違うようだ。
「…ロクシスも…えっと…」
口ごもったヴェインにロクシスは視線をはずしごまかすように眼鏡をことさら指でなおす。
その頬が微妙に赤かった。
「しかたないだろう!あそこにしか便箋や封書は売っていないんだ。…べつに母の趣味だからといって…いや、なんでもない!」
言いながらさっさと購買部の窓口に行き、ハゲルに話しかけて別の便箋の入った箱を出してもらっていた。
その姿を見送りつつ、ヴェインはまるで泣き笑いのように笑みを浮かべた。
「…それでも十分うらやましいよ…ロクシス…」
【終】
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