雪のように

 

 

雪のように

 



 

ゆっくりゆっくり、覚えていく、『好き』という気持ち。

少しずつ少しずつ、降り積もっていく、想い。

まるで溶けない雪みたいに。



 

 



「ヴィーゼ!」

呼びかけられた声にヴィーゼが振り返ると、フェルトがこちらに向かってくるところだった。

「フェルト」

その傍まで駆け足でやってきたフェルトは、不思議そうな表情を浮かべているヴィーゼに向かって告げる。

「ルテネスからヴィーゼはもう帰ったって聞いて。でもどこにもいないから捜してたんだ」

そう言われてヴィーゼはほんの少しこの場所に立ち寄ったつもりが、もう長い時間が経っていたことに気づいた。

「ごめんなさい」

「…一体なにしてたんだ?」

「ん…何かっていうわけじゃないの。ただちょっとぼうっとしてたみたい」

「……」

雪が舞う中で、もうすぐ日暮れという時間帯。
あまり人通りのない林の中でたたずんでいたというヴィーゼに、フェルトは黙って手を差し出した。

「?」

差し出された両手に、ヴィーゼはフェルトを見上げた。
帰ろう、という意味ならば、片方でいいはずだ。
フェルトが両手を差し出す理由がわからない。
けれど見上げたフェルトの目に促されて、ヴィーゼも黙って手を重ねた。


フェルトはヴィーゼが応えて出した両手を取って、それぞれ右手と左手を重ねて握る。
ヴィーゼの手を取った瞬間、ひやりとした感触が指に伝わり、フェルトは眉をひそめた。

「冷たい、よな」

「平気だよ」

はにかむような笑みを浮かべて、ヴィーゼはフェルトを見つめる。

「…平気だよ。大丈夫」

ヴィーゼが言っても、その手の冷たさにフェルトは表情を曇らせたままだ。
ヴィーゼが触れた部分からフェルトが持つ熱が確かに伝わっているのに、その手は一向に温まらない。

もっと熱が伝わるようにフェルトが手を強く握ろうとすると、その力にヴィーゼが小さく声を上げた。
あわてて力を緩めたフェルトは、ふと何かを思い立ったように、手から視線を上げてヴィーゼを一度見た。

「…ちょっと、まってろよ」

言いながらフェルトは視線を下げ、ヴィーゼの手を取ったまま両手を口元に近づける。
フェルトのなすがまま手を預けていたヴィーゼは、目の前の光景に頬を赤く染め目を閉じた。それでも、フェルトが指先に息を吹きかけるのを感じる。

暖かい息が何度も指先に触れ、その熱さにヴィーゼの手が震えた。
それだけでなく、フェルトの触れている指先や手のひらも、ヴィーゼは熱く感じる。
その熱が増幅されて伝わったように頬もいっそう熱くなった。

時折、フェルトの唇がその指先に触れ、そのたびに恥ずかしさに俯いたまま、ヴィーゼはきゅっと目を閉じる。



…前は、こんなふうに感じることもなかったのに。
泣きたくなるような、こんな気持ち。
嫌なわけではない。それは絶対に違う。
けれど、昔と同じはずのことが、今は、同じ気持ちで受け止められない。



それはヴィーゼの、胸の中に積もった雪がそうさせる。
しかも、暖かい熱に触れているのにそれは溶けるどころか、なお新たな雪を重ねるのだ。



 


「ほら、もう平気だろ」




そう声をかけられて、ヴィーゼはあわてて顔を上げた。
そこにはまだ両手を手に取ったままのフェルトが、顔を上げてヴィーゼを見つめている。
そしてふと、ヴィーゼを見つめたその表情が不思議そうな顔になった。

「ヴィーゼ、顔どうしたんだ?」

「えっ!あ…な、なんでもない!」

紅潮したままだった頬をごまかすようにヴィーゼは顔を横に振った。

「そうか?…ならいいけど。今日はもうはやく帰ろう。こんな天気で外にいたら風邪をひくから」

言うとフェルトはヴィーゼの片方の手を取ったまま帰り道を歩き始める。
ヴィーゼもそれにつられるように歩き出した。


 

 

 



 

                              【終】                   

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