戦士の休息

 

 

戦士の休息

 



 

「アンタよっぽど平和なとこから来たんだね」

呆れまじりの声で、フェルトに言ったのはノインだった。

「宿屋ならわかんなくもないよ。でもさ、ここは砂漠の真っ只中なんだよ。こんなふうに布で囲ってても、その布一枚隔てただけの場所に魔物がうようよしてんのさ。そんな場所でぐうたら正体もなく眠ってるやつは、よほどの大物か、…もしくは救いようのない馬鹿だ」

ぐるっとテントの周囲を指差して、大げさにため息をついてみせる。その彼女の目の前に青みがかった銀髪の少年が、神妙な面持ちで座っていた。
砂漠を行く間は身につけている日差しを避けるマントをはずすと、肩や腕、お腹まで肌の露出した服を着ているノインに対して、フェルトは見ているこちらまで暑苦しくなるような厚手の首元までおおうシャツに、さらに上着を重ね着をしている。
熱中症になってオアシスで行き倒れていたのは、この服のせいもあるのではないかとノインは思っているのだが…。

(まあいいや、今は別のことが重要だし)

「たしかに、エデンに魔物はいなかったけど…」

そうだろうなとノインは思う。
でなければあんなに眠ったりは出来ないだろう。
キャンプの間、最初の数日は体調が戻ってないのだろうと黙認したが、しばらくするとそれが単に寝ているのだと気づいた。先ほどテントの布越しに甲冑ネズミが襲ってきたときも、ノインの先制攻撃が無かったら危なかったかもしれない。

(…一応、起きることはできるんだよね。でもそれが遅い)

近づいた時点で気づいたのでは遅いのだ。
妙に立派な剣を持っているから、ある程度の剣の腕は見込んでいたが…それ以外のこととなると、フェルトは砂漠の子供に毛が生えた程度の知識や経験しか持たない。
ふとそこまで考えて、ノインは「あれ?」と一つのことに思い至る。

「そのわりには、魔物の名前とか知ってたんだ?」

確認するノインに、フェルトは首を横に振った。

「そんなに知ってるわけじゃない。昔、ヴィーゼと一緒に本を読んだくらいなんだ」

「…ふぅん」

また、『ヴィーゼ』。
ここ数日しか一緒に行動していないが、ことあるごとに出てくるその名前はすでに覚えてしまった。
(なにかなこれは、故郷に残してきた恋人ってヤツ? でも一緒に暮らしてるとか何とか…はっ?)
彼の語った異世界云々は横においておくとして、『エデン』という場所には魔物がいないらしい。
魔物だけではなく、この様子だと盗賊や追いはぎなんてものもいないようだ。

そんなことを考えていたノインに、フェルトはぺこんと頭を下げた。

「でも、うん。そうだな。ごめん、確かに無防備すぎたと思う。今度からは気をつけるよ」
随分素直にノインの言葉を受け入れたフェルトに対し、ノインは逆に焦ってしまい、ぱたぱたと手を前に振った。

「…別に謝る必要はないけどさ。…まあ、気長にやんな。一日二日でできるモンでも無いし。いざとなれば、寝ずの番でもやってもらうから」

最後の台詞を、意地の悪そうな笑みをわざと浮かべてノインが言うと、案の定フェルトは顔を引きつらせた。

「いざとなれば、ね…」
「そうならないように、頑張んだね」
「肝に銘じるよ」

 


 



 

                              【終】                   
 

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