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ブランシモン家には二人の子供がいる。
「ただいま、おねえちゃん!」
それは彼女の妹のイリスと、
「ただいま、ヴィーゼ」
幼馴染のフェルト。
夕食の仕度の途中、後ろから抱きつかれたお母さん…もといヴィーゼは、野菜を切っていた手を止めて二人に声をかけた。
「おかえり。イリス、フェルト」
「「ただいま」」
ヴィーゼのスカートにつかまっているイリスと、ちょうど肩から覆いかぶさるように抱きついているフェルトはその言葉に非常に嬉しそうに答える。
「それから、前から言っているけど、刃物を扱っているときには抱きついちゃダメだよ。危ないでしょ?」
「はーい」
「わかった」
続くヴィーゼの言葉にもにこやかにそう答えながら、二人とも抱きついたままである。
ここしばらく繰り返されたやり取りに、さすがに疲れを感じ始めたヴィーゼは、ともかくこの状態から抜け出そうと決意する。
幼馴染の名を先に呼んだのは、体が大きい分抱きつかれていると重いせいだ。…たぶん。
「フェルト」
「なに?」
応えるフェルトの声が珍しく弾んでいるのはなぜだろう?
ふとそんな疑問が浮かんだが、とにかくヴィーゼは言おうと考えていた言葉を先に口にする。
「放して」
すぱっと簡潔に。
疲れも手伝って少々険のある声になったヴィーゼの言葉に、フェルトの表情が固まる。
「ヴィーゼ…?」
なぜかフェルトはひどくショックを受けた顔をしている。
それでもヴィーゼの言葉を聞きいれ、名残惜しそうに抱きついていた腕を解く。
そしてまるでおあずけをくらった犬のような眼差しでヴィーゼを見つめてくる。
その様子を疑問に思いながら見ていたヴィーゼの耳に「くすっ」という非常に意味ありげな、小さな含み笑いが聞こえた。
ヴィーゼがその声の聞こえた足元に目を向けると、イリスがにっこりといつもどおり可愛らしい笑顔を向けてくる。
彼女があの笑いの主なのだろうか?
(まさかね。…気のせいかな)
二人に抱きつかれていたときには自由が利かなかったが、フェルトが離れたおかげで随分楽になった。
「ふう」と小さく息を吐き、そのまま再び夕食の支度を始めたヴィーゼの背後。
本日の勝ち組イリスと、負け組フェルトの間で激しい火花が散っていた。
【終】
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