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じとじとじと。
「あつ〜〜い」
ごろごろと床に寝転がりながら寝巻き姿のネルがぼやく。
「ネルちゃん、暑い時に暑いって言うと、ほんとにあつくなっちゃうんだよ?」
こちらも寝巻き姿のイリスが、ぱたぱたと掌で顔を仰ぎながら言うと、ネルはおおきくごろんっと転がって床にぺったりと張り付く。
『なまぬるいし〜』と誰にともなく呟くと、イリスのほうを仰いだ。
「でもぉ〜、イリスも思ってるんでしょ?」
「…。うん、それは…ちょっとだけ」
「ちょっとぉ〜?」
「ちょっびっと…たくさん」
えへ、と人差し指をつきあわせてイリスが舌を出す。
ゼー・メルーズは水上都市である。
春夏秋冬、ある季節を除けば、過ごしやすいと言えるだろう。
…つまりは、梅雨の頃を除いて。
「あついね〜」
「うん〜」
そういう訳で、先ほどの言葉はどこへやったのか、二人はイリスの部屋でぐったりと横になっている。
「窓は〜」
「開けてるー。でも…」
「湿ってて気持ち悪い〜」
うんうん唸っていたネルだったが、ふと調合材料の入った棚に目が向き、あることに思い至った。
「ねえ、イリス」
「なぁに〜ネルちゃん」
「手っ取り早く、涼しくなるアイテムってないかな?」
「え〜、今からは無理だよ〜」
「そうじゃなくて!今持ってるなかでってこと」
ぴょこんと勢いよく起き上がったネルが、ごそごそと棚の中をあさりだす。
その様子を見て、横になっていたイリスもあくびをかみ殺しながら起き上がった。
「レヘルンとか?」
「それは効果強すぎないかなー」
「えー、強くていいんじゃない?」
「だめだよ、もっと効果が弱くないと…えっと、あ、これがあった!」
重くなっていた棚のひとつを開け、イリスがあるものを取り出した。
「ぷにぷに玉?」
「うん、これならたくさんあるし。ひんやりしてて気持ちいいし」
「そっかなー…ん〜?」
イリスから受け取ったひとつを頬に当てて、ネルはむぅ〜と眉を寄せる。
「…けっこういいかも…」
「ね?」
にっこりと笑うイリスと目が合う。
たしかに触れた部分はひんやりしていて、触れると弾力もあってぷにぷにしてて気持ちいい。
「いくつあったっけ?」
「えっとねー確か…」
翌朝。起き出してきたエッジはしばらく経っても物音ひとつ立たない部屋に、首をかしげた。
おかしい。
普段からイリスは寝坊ぎみだが、さすがにこの時間まで起きてこないというのはめったにないことだった。
しかし、おそらくは眠っているだろう彼女の部屋に入るのはさすがにためらわれて、エッジがはしごの前で思案していると、ぽとんと、ひとつあるものが上から落ちてきた。
拾ってみると、それはイリスの錬金術の調合に使うアイテムのひとつだった。
「また物があふれてそのままにしているのか…?」
あれだけ物は整理しろと、探索でアイテムを拾ってくるたびに言っているのに、それが守られたことはあまりなかった。
「イリス!」
声を上げて彼女の名を呼ぶ。
反応のない様子に、大きくため息をひとつついて。
仕方なさそうに、エッジははしごに手を伸ばした。
彼が部屋中に散らばるぷにぷに玉に絶句するのはこのあとすぐのこと。
イリスとネルが二人一緒にエッジに叱られるのはこの1時間後のことだった。
【終】
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