| 【 強奪 ミニSS 】
「……先輩、お久しぶりです」
薄暗い路地裏。
再会の言葉には似合わない剣呑とした声が響く。
「久しぶりだな、元気そうでなにより」
「先輩もお元気そうで……それはともかく、これはどういう冗談ですか」
アンナは細い腕にぎりぎりと力を篭める。
それでも、その拘束は解けそうになかった。
顎を押し、胸を押し、腕を押し。……しばらくもがいて、諦める。
結局卒業の頃と変わらずに、グンナルには敵わないのだ。
悔しさに歯噛みする。
大体、力だけならともかく、今は違う。
グンナルの服……いや、体から立ち上る瘴気のようなものが、
アンナの体にがっちりと絡み付いて、動けないのだ。
「冗談ではない。俺様は本気だ」
「何がどう本気なのか、説明してください。……なんですか、この黒いの」
「では、説明してやろう」
グンナルはもったいぶるようにゆっくり息を吸って見せた。
「俺様は、闇の魔王になったのだ。ついては部下をさがしている」
「先輩……、本気って言葉はどこへ行ったんですか?」
アンナは呆れ混じりに返す。
「この纏うオーラを見るがいい、これが証拠だ」
見ろと言われて、素直に見下ろしてみた。
もやもやと立ち上る黒い霧。
薄暗い路地裏で、なお濃く立ち上る黒い何か。
自由になる範囲で手を動かして、ぐっと掴んで見る。
もやのように見えたそれは、布のようなしなやかさを返した。
……アンナはぴくりと眉根を顰めた。
「……これ、ヴェイン先輩のマナリズムコートの改造品かなにかですね」
「む。……バレてしまっては仕方ないな。
……だが、タネが判ったところで結局は動けまい。素直に俺様の部下になれ」
グンナルはアンナをひきよせて、顎を持ち上げる。
余裕を見せるグンナルに、しかしアンナは微笑ってみせた。
「先輩、私を甘く見ないで下さい。……そんなもの、私の前では、ただの布です!」
一瞬。
アンナは左手で自身の腰に帯びた長刀を引き抜いた。
目にも留まらぬ速さでそれを操り、黒いもやだけを引き裂くと……。
その場にはらはらとマントの残骸が落ちた。
「ふむ。やはりアンナが相手ではコレもだめか。また開発のしなおしだな」
「え?」
グンナルは拘束を解かれた事を気にもせず、さらりと言った。
その反応でやっと理由がわかったアンナは思い切り顔を顰めた。
「……先輩、もしかして私を実験台にしたんですか?」
「うむ。この手の品はお前に試すのが一番確実だからな」
怒りに任せて刀を何度か振り回したが、今度はさっと避けられた。
「そんな力任せに振っても俺様には当たらんぞ」
「……こんな治安の悪い町にまで捜しにきたのに、出会い頭にこんな悪ふざけをされると
は思いませんでした!反省して素直に斬られてください!」
「……ん?なんだ、お前は俺様を捜しにきたのか?」
グンナルは更に避けながら、口元に笑みを浮かべる。
口を滑らせたことに気がついて、アンナははっと口元に手をやった。
一度驚きに見開いた目を、きっと細める。
「……先輩なんて、捜してません。聞き間違いです」
「そうかそうか。さっきのは方便だが、本当に部下にしてやっても」
「結構です!」
とうとう背を向けて歩き出したアンナを、グンナルはにやついた目で見送った。
「なんだ、卒業して数年たったのに、まだまだ子供だな」
【終】 |